［アメリカ報告］オレゴン州から 同性カップル、つかの間の歓喜 (読売 2005/08/20朝刊)

［アメリカ報告］オレゴン州から　同性カップル、つかの間の歓喜 (読売 2005/08/20朝刊)

　◆３０００組の「結婚証明」無効に

　居間の壁に、１枚の紙が額に入れて飾ってあった。

　「結婚証明書」

　オレゴン州ムルトノマ郡が、５年間同居する郡職員メリー・リーさん（４２）とレベッカ・ケネディさん（４４）に発行したものだ。

　「私たちが結婚した事実は変わらない。この証明書は無効になったけれど……」。メリーさんの言葉に、レベッカさんがうなずく。

　同郡が同性間の結婚を認め証明書を発行することにしたのは昨年３月。メリーさんらは、交付を受けたカップル第１号となった。

　証明書を手に庁舎を出た瞬間の光景を、メリーさんは忘れられない。順番待ちの列を作っていた約５００人から、嵐のような拍手と歓声が沸き起こった。感極まり、涙を流す高齢の人もいた。

　「結婚することで正式な『家族』になれる。異性のカップルと同じように認められるのを、みんな長年待っていたのよ」

　◆郡が発行→州政府は拒否

　米国では昨年、マサチューセッツ州が州として初めて同性婚を認め、カリフォルニア州サンフランシスコ市も、同性カップルに結婚証明書を発行した。オレゴン州最大の都市ポートランドを中心に、リベラルな住民が多いことで知られる同郡も、市民団体からの要請を受け、これに続いた。

　同州は、安楽死を米国で唯一合法化するなど独自の政策で知られる。ポートランドは全米でも同性カップルの集中度が高い都市だ。

　ところが、州政府は同性婚を認めるには、州議会あるいは司法の判断を仰ぐ必要があるとして、郡が許可した婚姻の正式な登録を拒否。メリーさんらは州政府を相手取って裁判に打って出たが、州最高裁は今年４月、証明を交付された約３０００組の結婚を無効とする判断を下した。昨年１１月の住民投票で、同性婚を禁じる州憲法修正案が成立したことが大きな要因だ。

　ジュリー・ノブコフ・オレゴン大教授（政治学）は、「伝統的に個人の選択を尊重する風土がある」と同州の“先進性”を指摘しながらも、「政治的対立も激しく、保守的な農村部では、同性愛者への反発も強い」と、同性婚を巡る同郡と州政府とのねじれ現象を説明する。

　一部の自治体で認知され始めた同性婚は、ブッシュ政権を支持する宗教右派の反発を呼び、全米で新たな論争の的になっている。昨年の大統領選に合わせて行われた住民投票では、同性婚を禁じる州憲法修正案が計１１州で成立した。同州は唯一否決の可能性があると見られたが、僅差（きんさ）で可決している。

　ポートランドにあるプロテスタント系教会の牧師ティム・ナシフさん（５２）は、「伝統的な家族のあり方が崩壊せずにすんだ」と話す。ナシフさんは、郡が証明書発行を始めた直後に「結婚防衛連合」を結成し、住民投票での法案可決に向けて積極的に動いた。

　メリーさんとレベッカさんには、レベッカさんが体外受精で出産したエバちゃん（２）がいる。「親として娘を守るためにも、正式に結婚したい」というのが二人の希望だ。

　今月閉会した同州議会では、下院を通過せず廃案になったものの、同性カップルに結婚と同様の法的権利を与える法案が上院を通過している。

　「無効になった結婚も、長い目で見れば大きな一歩。保守派の攻勢は、私たちの主張への理解が進んでいることへの焦りでしかない」。ポートランドで同性カップルを支援する市民団体の代表、ロイ・ソープさん（４２）は、そう言い切った。（オレゴン州ポートランドで、古沢由紀子、写真も）
　
　図＝地図
　
　写真＝無効になってしまった結婚証明書を手にするメリーさん（右）とレベッカさん、エバちゃん（米オレゴン州ポートランド市の自宅で）

State of Oregon
Multnomah County