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麻薬 America's Most Dangerous Drug 破滅へ誘う純白の悪魔 全米で拡大するメタンフェタミン汚染 市販薬を悪用する密造者と司法当局の終わりの見えないバトルの裏側に迫る デービッド・ジェファソン(ロサンゼルス支局長) (ニューズウィーク日本版 2005/08/31) 強烈な高揚感が手軽に味わえる覚醒剤メタンフェタミンの魔力で、全米150万人がドラッグ常用者に。汚染の急拡大と犯罪の増加、密造中の事故による被害の恐ろしさに取り締まりの現場は危機感をつのらせる。 シカゴ郊外の緑豊かな高級住宅地バーリッジ。アメリカンドリームの象徴であるこの土地にキンバリー・フィールズ(37)が夫とマイホームを購入したのは、8年前のこと。愛犬はラブラドールレトリバー、愛車はボルボ。2人の息子にも恵まれた。 仕事は大手医療サービス会社の営業担当。だが、高学歴・高収入のワーキングマザーとして「理想の生活」を送っていたフィールズは、いつしかあるモノにとりつかれていた――メタンフェタミン(覚醒剤の一種)だ。 この白い結晶の粉末や煙を吸い込んだり、注射で摂取したりすると、急激に気分がハイになる。自信がみなぎり、感覚は研ぎ澄まされ、性欲も強まる。だが、それもほんの数時間。その先に待ち受けているのは人生の破滅だ。 フィールズは薬物依存症のリハビリ治療を受けたが、効果はあがらなかった。夫からは離婚を申し渡された。万引きで逮捕されること3回。盗んだとされているのは市販の風邪薬だ。処方箋なしで買える風邪薬の一部にはメタンフェタミンの主原料、プソイドエフェドリンが含まれている。 6月1日に警察が家宅捜索に踏み切るまでに、フィールズは自宅の一部を「メタンフェタミン密造所」に変えていた。裏庭からは改造したプロパンガスタンクも見つかった。中に隠されていたのは、メタンフェタミンの合成に必要な無水アンモニアだった。 フィールズのやせ細った足にはひどいやけどの跡があった。密造所が爆発する危険があるとして、警察は近隣96世帯を退避させた。 メタンフェタミンは比較的手ごろで、中毒性が高い覚醒剤だ。以前は「貧者のコカイン」とバカにされていたが、現在、全米社会に急速に浸透。主婦からIT専門家、工場労働者、ゲイのホワイトカラーまで、社会の枠組みを超えて多くの人々をとりこにしている。 政府によると、メタンフェタミンの使用経験があるアメリカ人は1200万人以上。常用者は推定150万人に達する。50州すべてで密造所が見つかり、ワーストワンのミズーリ州では2002~04年で8000カ所以上が摘発された。 取り締まりの現場は危機感をつのらせている。全米郡協会は7月、45州500司法機関を対象に行った調査の結果を発表。違法ドラッグの最重要課題にメタンフェタミンをあげたのは全体の58%。コカインは19%、マリフアナは17%、ヘロインはわずか3%だった。 全米の刑務所とリハビリ施設にはメタンフェタミン中毒者が殺到し、胎内で薬物の影響を受けて生まれてくる赤ちゃんも急増。多くの州で養子制度はパンク寸前だ。大手スーパーは市販の風邪薬を店頭から、薬剤師のチェックが必要な処方薬専用カウンターへ移動させる対策を取りはじめた。 社会と環境に与える悪影響はメガトン級 密造者は市販の風邪薬から有効成分プソイドエフェドリンを抽出し、ヨウ素や無水アンモニアと高温で合成させる。合成の「レシピ」はインターネットで簡単に入手できる。完成したメタンフェタミンを摂取すると、脳内でドーパミンが急激に分泌され、強烈な高揚感を味わえる。 乱用の拡大が進むなか、早急に答えを出さなければならない政治的問題がある。果たして、政府の麻薬対策は的を射ているのか。 ジョージ・W・ブッシュ政権はこれまで、麻薬戦争の最大の敵としてマリフアナをあげていた。理由は、全米で推定1500万人という膨大な使用者数と「入門ドラッグ」としての位置づけにある。「20歳までにマリフアナを吸わなかった子供は98%の確率で、その後いかなる薬物にも依存しない」と、麻薬取締政策局のスコット・バーンズ副長官は言う。 だが、取り締まりの最前線からは認識不足を指摘する声もある。「マリフアナを最優先問題にすれば、連邦政府の信頼性は損なわれる」と言うのは、オレゴン州の麻薬捜査責任者マーク・マクドネルだ。「メタンフェタミン汚染はこれまでにない危機的状況にある」 密造中の爆発による死亡事故や環境汚染(残留する有害廃棄物は完成品1キロ当たり5キロ)、社会福祉サービスの逼迫、そして暴力事件の増加――。全米郡協会のビル・ハンセル会長によると、「社会や環境に与える悪影響は他のどんな薬物より大きい」という。 政策論争をよそに汚染はみるみる拡大 同協会の調査によると、メタンフェタミンが原因で強盗や家庭内暴力、個人情報の盗難・詐欺などの犯罪が増加したと考える地方司法機関は、全体の7割に達した。 麻薬取締局(DEA:Drug Enforcement Administration)は2004年度の対策予算を1億5140万ドルに強化し、地方にも人員を派遣。その取り組みは、現場の捜査関係者からも高く評価されている。アルベルト・ゴンザレス司法長官は7月、「メタンフェタミンは全米で最も危険なドラッグ」と発言した。 だが、政府に具体的な方策を求める声は高まるばかり。連邦議会では超党派の「メタンフェタミン連盟」が結成され、総勢118人の議員が地方司法機関に対する連邦予算の割り当てを減らそうとするブッシュ政権に反対している。 一方、政府は金で解決する姿勢には否定的だ。「私たちにとってもこの問題は重要課題だ。その証拠に、リハビリ施設の利用をはじめ、さまざまなプログラムを策定してきた」と、麻薬取締政策局のトム・ライリー広報担当官は言う。「注目を集めているドラッグという理由で、声高に対策を求める人もいるのではないか」 もっとも、麻薬戦争の犠牲者には政策論争などほとんど意味がない。テリー・シルバーズ(34)はジョージア州のカーペット工場で19年間まじめに働き、妻と3人の子供と暮らしていた。違法ドラッグといえば、マリフアナを2回吸ったことがあるだけだった。 だがある晩、飲み仲間から「酔い覚まし」にメタンフェタミンを勧められた。効果は粉末を鼻から吸い込んですぐに実感した。「12時間たっぷり眠ったみたいな気分で、酔いは覚めていた」と、シルバーズは振り返る。それから週1~2回吸いはじめ、やがて注射を使うようになり、80キロあった体重は60キロ近くまで落ちた。 妻は癌ではないかと心配した。だが、シルバーズに発作や幻覚の症状が表れるようになると、薬物の使用に気づいた。仕事を辞めてリハビリにも通わない夫に愛想を尽かし、別れたいと告げると、「殴られて鼓膜が破れた」と彼女は言う。 シルバーズはメタンフェタミン密造の容疑で告発され、郡刑務所に収監された。手錠をかけられ、げっそりやせたシルバーズは本誌の取材にきまり悪そうにつぶやいた。「見かけほどハマッてるわけじゃないんだ」 一方、ニューヨークやロサンゼルスといった都市部のゲイ社会ではエイズという致命的な問題がからんでくる。メタンフェタミンを使用すると性欲が異常に高まり、奔放な気分になる。これが「危険なセックス」の急増につながる。 最新調査によると、昨年ロサンゼルスでHIV(Human Immunodeficiency Virus:エイズウイルス)に新規感染した男性同性愛者のうち、3分の1近くはメタンフェタミンを使用した経験があった。2月には、ニューヨークで従来の治療薬が効かない新種のHIVが発見され、全米を震撼させた。患者はメタンフェタミンを常用する男性同性愛者だった。 ゲイの男性に限った問題ではない。ストレートの男子高校生や大学生の多くも、セックスの興奮を高めるためにメタンフェタミンを使っていると、ニューリーフ治療センターのアレックス・スタルカップ医長はみている。「金曜の夜は大量のドラッグを仕入れて女の子たちと山小屋へ行き、セックスざんまいの週末を過ごしている」 皮肉なことに、メタンフェタミンは性的不能の原因になる可能性がある。一方、女性にとってより大きな誘惑のタネが「ダイエット効果」。スタルカップのもとには、身長170センチ、体重40キロ未満で来院した患者もいたという。 法の網をすり抜ける狡猾な密造者たち ここまで汚染が拡大するとは、ほとんど予想されていなかった。1980年代に都市部で爆発的に広まったクラック(コカインの加工品)はすぐにメディアと政府の関心を集めたが、メタンフェタミンは政治・経済の重要拠点から離れた地方にとどまっていたからだ。 メタンフェタミンそのものは新しいドラッグではない。だが原料と製造方法の向上で、効果は強力になった。第2次大戦中は、兵士の士気を高めるために枢軸国と連合国双方が使用。日本では、カミカゼ特攻隊が出動前に大量に摂取したともいわれている。 1950年代には、ダイエット補助剤や抗鬱剤として一般的に処方されていた。政府が違法薬物に指定したのは(一部の医療目的の使用を除く)、1970年のことだ。もっとも、その時点で西海岸の暴走族はすでにメタンフェタミンの密造・流通に手を染めていた。 1990年代前半には、メキシコの密売組織がカリフォルニアの田舎に、週末2日間で約25キロを製造できる「スーパー密造所」を次々に構えた。ちなみに、15人がハイになるために必要なメタンフェタミンは、わずか3.5グラムだ。 密造者と司法当局のイタチごっこは70年代から続いてきた。原料の供給ルートが断たれそうになると、密造者は市販薬に含まれるエフェドリンを悪用。そこにも取り締まりが及ぶと、関連化合物プソイドエフェドリンに切り替えた。 90年代半ばには、プソイドエフェドリンの大量販売規制を受けて隣国カナダへ移動。2003年、カナダが取り締まり強化に踏み切ると、今度はアメリカを飛び越えてメキシコヘ南下した。 メキシコにはかつてない量のプソイドエフェドリンがアジアから流入している。現在、アメリカ国内のメタンフェタミンの約半分はメキシコ産だ。麻薬取締局はメキシコや香港の司法当局と協力し、プソイドエフェドリンの流通や加工品の密輸を防ごうとしている。 だが、国内の敵も忘れてはならない。メタンフェタミンは比較的簡単に製造できるため、全米には数千の密造所が作られた。司法当局の目下のねらいは、原料へのアクセスを制限することだ。 昨年、オクラホマ州は全米に先駆けて、プソイドエフェドリンを含む市販の風邪薬を処方薬専用カウンターに移すよう義務づけた。結果、「密造所は一掃された」と州麻薬局の広報担当官マーク・ウッドワードは言う。今では17州が同様の措置を取り、プソイドエフェドリンの販売になんらかの規制を設けている州は40を数える。 法規制に抵抗してきた医薬品メーカーも、薬の配合成分をメタンフェタミン合成に使えないものに替えるなど、対策を講じはじめた。 とはいえ、勝利への道のりは険しい。普通の田舎町がまたたくまにメタンフェタミンの巣窟に変貌する可能性を、関係者は痛いほど認識している。このドラッグは家族全員を誘惑して「生ける屍(しかばね)に変えてしまう」と、ペンシルベニア州のある警官は言う。 歯はボロボロになり食事もかめない 恐ろしいことだが、メタンフェタミン汚染を完全に解消する「処方箋」はない。密造者を逮捕して封じ込めていくしかないが、その規模は想像をはるかに超える。 カリフォルニアに暮らす元売人ドミニク・イポリト(46)は医師や弁護士、デザイナー、会計士、主婦を相手に商売をしていた。有罪判決を受けて服役中、自分が売りさばいていたドラッグの影響を目の当たりにしたという。「メタンフェタミンをやると、歯がボロボロになるって話は本当だった。ムショの食事をまともにかめない連中がやまほどいたよ」 政府がどんな闘い方をしているにせよ、うまくいっていないのは確かだと、刑期を終えて出所したイポリトは指摘する。「自分たちが何かを変えられるとでも思ってるのか?」 だが、簡単にあきらめるわけにはいかない。あまりに多くの人々の人生が、メタンフェタミンの魔の手を食い止められるかどうかにかかっているのだから。 ニューズウィーク日本版 2005年8月31日号 P.48 ♪ 記事中の太字は引用者
by alfayoko2005
| 2005-08-31 11:26
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