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読売2006. 03. 14朝刊
[あすへ走る]エチオピア報告(1)出産、死と隣り合わせ(連載) ◆10代前半で結婚、妊娠… 国連人口基金(UNFPA)親善大使として、マラソン五輪メダリストの有森裕子さんが先月、アフリカのエチオピアを訪問した。母子保健の実情や女性の地位向上策などを見るためだ。古い歴史を持つ同国だが、一人当たりの国民総所得は年110ドル(2004年)で、最貧国の一つでもある。有森さんに同行し、さまざまな問題と解決への取り組みを取材した。(伊藤剛寛) エチオピア北部の街・アクスムに昨年開業したセントメリーアクスム病院産科棟のベッドに、生後3日の女の赤ちゃんが寝ていた。母親のティブルツィーさんがほほえみかける。「無事に生まれてうれしい」。戸籍がしっかりしていないため、ティブルツィーさんの正確な年齢はわからない。13歳で結婚し、子どもは4人目、現在30歳という。 「普通に行われている自宅での出産だったら、母子ともに亡くなっていたでしょう」と助産師のセゲアラヤさんが振り返る。病院から約30キロ離れた地域を巡回中に難産の妊婦がいることを知り、病院に運び込んだ。診察すると、胎児は逆子、大きな子宮筋腫(きんしゅ)も見つかった。帝王切開を行い、辛うじて母子を救った。 セゲアラヤさんは「出産は安全とは言えません。道端で死んでいる女性を見たこともあります。経済的に貧しく、危険な容体の妊婦を病院に運ぶ交通手段も少なく、施設や訓練を受けたスタッフも足りません」と訴える。 病院などで出産する例は1割に満たず、多くは知識や技術のない身内の人の介助で行われている。世界人口白書(2005年版)によると、同国での妊産婦の死亡は出生10万に対し850、乳児の死亡は出生1000に対し95に上る。例えば、日本の場合、妊産婦死亡は同10、乳児死亡は同3だ。 出産を危険にしている要因の一つに、体が未発達な若いうちに結婚する女性が多いという事情がある。法的に結婚できるのは18歳からだが、農村部などでは10代前半で結婚する女性が少なくない。金銭を目的に親が幼い娘を強制結婚させる例もあるという。 若年齢での出産のため起きている問題が、「フィスチュラ」(産科瘻孔=ろうこう)という産道や泌尿器などの障害だ。骨盤が十分発達していないと難産になりやすく、胎児が長時間産道を圧迫し、直腸や尿道の組織が壊死(えし)する。その結果、慢性的に尿や便が抑えられなくなる。死産になる場合も多い。家族から見捨てられたり、自殺を図ったりする例もある。 適切な医療や支援があれば、心身の傷をいやしていくことは可能だ。首都アディスアベバにあるフィスチュラ病院では、年間約1500人の手術を行っているが、この数は全国にいる患者の一部に過ぎない。同病院では、各地の治療施設を増やし、啓発活動なども行っている。 UNFPAはこうした試みを支援し、昨年日本で設立された民間団体「フィスチュラ・ジャパン」も募金などを呼びかけている。同病院の医師キャサリン・ハムリンさんは「フィスチュラはかつて先進国にもあったが、撲滅できる病気。多くの国の協力がさらに必要です」と訴える。 有森さんは「出産は本来、幸せなもの。しかし実情は母親と赤ちゃんにとても厳しい。最低限安全な出産ができるようにする努力がさらに必要です」と話す。 ◆陸上王国 エチオピアは陸上王国として知られる。アベベ・ビキラは男子マラソンでローマ五輪、東京五輪と連覇。アトランタ五輪女子マラソン金メダリストのファツマ・ロバもおなじみ。有森さんは今回の訪問の際、アディスアベバ大学で、アテネ五輪女子5000メートル金メダリストのメセレト・デファルと記念ランニングを行った=写真=。 図=地図 写真=難産の末、出産した女性を見舞う有森さん。昨年出来た産科棟は簡素だが、清潔だ(エチオピア・セントメリーアクスム病院で) 2006. 03. 15 [あすへ走る]エチオピア報告(2)女性器切除 過酷な慣習に「ノー」(連載) 「15歳くらいの時のことです。ベッドに座らされて、口に布を詰められました。カミソリの刃で切られたときは、気を失いそうになりました」 エチオピア南部の街ドラミで、35歳の女性が重い口調ながらも、性器切除の経験を打ちあけてくれた。 アフリカなどでは、古くから少女に対して女性器切除(FGC、FGMなどと略される)が行われてきた。起源は明らかではないが、現在も「女性の汚い部分を除く」「伝統的な習慣だから」「純潔を保つ」などの理由で、地域で脈々と続いている。エチオピアでは7割以上の女性が受けていると言われる。 場合によっては死亡することもあり、感染症や難産など様々な身体的な悪影響が指摘されている。冒頭の女性も、難産で苦しんだという。 ただこの地区では、ここ数年、FGCの廃止運動が急激に浸透した。街には、FGCを受けてないことを示すTシャツを着た少女が数多く歩いている。中心人物は、女性活動家ボーゲ・ゲブレさん。「私も経験者。そのとき、母が泣いていた記憶があります。だれも子どもを傷つけたくはないはずです」 ボーゲさんはこの地区で生まれ、アメリカなどで大学時代を過ごした。帰国後に民間組織を設立、数年前から本格的に運動を始めた。 地域に出向いて女性の訴えを聞き、ビデオや人体模型を使ってFGCの実態を男性に示す。「FGCがどういうものか、女性が何を失うのかを訴えました」。海外からの援助資金をもとに地元に橋を作るなど、住民の理解を得るため現実的な手法も取った。2004年には、FGCを受けない少女2万5000人を含む10万人規模の集会が開かれた。 ボーゲさんは「日本人にとっては遠い国のことかもしれない。でも、女性がノーと言えない不平等な状況がある点は共通しているのでは」と話す。 同国の憲法ではFGCを禁止しており、昨年施行された法律では罰金などの罰則も設けられた。しかし、現実はなかなか変わらない。 国連人口基金親善大使の有森裕子さんは「FGCは、廃止すべきだ。しかし、文化や慣習が関係しているため、問題は複雑です」と話す。 数年間FGC廃止のキャンペーンを続けた結果、同国南部の別の町では、FGCを受ける女性はやっと85%になった。家族計画の担当者は「地域によってはまだ100%続けているはず」と話す。 廃止に向け歩は進んでいるものの、道は遠いようだ。 ◆コーヒーの産地 エチオピアの特産品はコーヒー。「モカ」の銘柄で流通している。客をもてなす際などには、日本の茶道に通じる「コーヒーセレモニー」がしばしば行われる。床に草などを敷き、香をたいた中で、ゆっくり味わう。 写真=ボーゲさん(左)と地元の少女たち。FGCを受けていないことを示すTシャツを着ている(エチオピア・ドラミで) 2006. 03. 16 [あすへ走る]エチオピア報告(3)貧困、届かぬ抗HIV薬(連載) ◆高い女性の感染率 エイズの問題は、エチオピアでも深刻だ。2005年のエイズによる死者は、13万人以上とされる。世界人口白書(05年版)によると、同国の15~49歳のHIV(エイズウイルス)感染率は男性3・8%、女性5・0%。女性の感染率が男性より高い。 「これから私はどうなってしまうのか。とても不安です」。同国南部の街に住む30歳の女性は言う。夫が昨年エイズで亡くなり、自分も地元の施設で検査を受けたところ、HIV感染がわかった。夫は、仕事で各地に出張する機会が多く、感染経路は不明だ。 収入は夫の年金など月7000円程度。子どもは5人。この女性は決して貧しい層ではないが、「生活はぎりぎりで、十分な治療はできません」と話す。同国で抗HIV薬を使っている人は、治療が必要な人の1割未満と言われる。 国連人口基金(UNFPA)は「世界の女性HIV感染者のうち、約8割はアフリカの女性。貧困やジェンダー(社会的性別)が背景にある」と指摘する。 女性は男性に比べ識字率が低く、エイズについての知識がない場合も多い。夫が感染のリスクを抱えていても、妻が予防策を求めることはなかなかない。レイプによる被害も後を絶たず、性器切除や「寡婦相続」(夫が亡くなった場合、夫の親族と結婚させられる)など伝統的な習慣も、感染と無関係ではない。 対策も少しずつ進んでいる。アディスアベバ大学には昨春、学生などが検査やカウンセリングを受けられる施設ができた。エイズ対策の活動をする学生グループが大学と連携し、利用を勧めている。施設内には、男性用と女性用のコンドームが置かれ、自由に持ち出せる。 この施設ではこれまで約900人が検査を受け、HIV感染率は1・6%。性交渉による感染がほとんどと見られる。経済的な理由で、売春行為をする学生もいるという。担当者は「学生にもっと関心を持ってほしい。今後は病院と連携し、感染者に対するケアを充実させたい」と話す。 農村部でも、同様の検査・カウンセリング施設が増えている。ある施設では、若者の関心を集めようと、楽器や衛星放送テレビを置いていた。 国連人口基金親善大使としてエチオピアを訪れた有森裕子さんは、「エイズの問題は深刻だが、日常化すると関心が薄れがちになる。問題意識を持ち続けることが重要」と訴えた。先進国で唯一、HIV感染者が増えている日本にも同様のことが言える。 ◆主食「インジェラ」 エチオピアの主食「インジェラ」は、テフという穀物をひいて水で溶き、発酵させてから、クレープのように焼いたものだ。独特の酸味が特徴。肉や野菜の煮込みなどと一緒に食べる。 写真=アディスアベバ大学で、HIV検査について説明する担当者。受診者のプライバシーは守られる(エチオピア・アディスアベバで) 写真=インジェラ 2006. 03. 17 [あすへ走る]エチオピア報告(4)都市の変化 女学生「将来SEに」(連載) エチオピア南部の村イルガレム。バナナやコーヒー畑の中にわらぶきの家が点在する。 「少しでも今の暮らしをよくしたい」と話すターテレッチさんはまだ15歳だが、25歳の夫との間に、1歳の子どもがいる。夫はコーヒーなどを栽培して市場で売り、年1万円強の収入を得る。妻の仕事は、家事、育児、家畜の世話、そして何キロも歩いて往復する水くみなど。重労働だ。 一般に農村部では、女子は2歳くらいから、頭上に水がめを載せて歩き始める。食事をするのはまず男性から。女性は重労働と不十分な食事で栄養不足になりがちという。 国の大部分を占める農村に対して、都市の一部には別の生活もある。 首都アディスアベバ郊外に住む主婦エデンさん(30)は「子育ては大変だけど、楽しい」と言う。公的機関の運転手を務めるベライさん(41)と2年前に結婚。1歳の長男がいる。昨年、コンクリート造り2階建ての自宅が完成した。ローンは約20年で毎月4000円程度。貯金のほか、身内の援助も受けた。 エデンさんは元看護師。妊娠を機に仕事は辞めた。「この国では『育児や家事は女の仕事』『女はつつましく』という考えがまだ一般的です」 ただ夫は、子どものおむつを取り換えるし、風呂にも入れる。妻は「普通の男性は何もしません。彼は特別ですよ」。「小さいころ地方の農村にいて、女の人が大変な仕事をしていたのを見てきたから――」と夫は答えた。 アディスアベバ郊外は近年急速に宅地化が進み、ベライさん宅と同様の戸建てやアパートが多数立っている。 まだ女性への差別は根強く、社会的な格差も大きいが、一部には変化の兆しが見える。 アディスアベバ大学はこのほど、コンピューターを完備した女子学生専用の情報センターを設けた。視察したマラソン五輪メダリストの有森裕子さんは「『システムエンジニア(SE)になりたい』という女子学生の、生き生きした目が印象的だった」と話す。 有森さんは2002年から国連人口基金親善大使としてアジアやアフリカを訪れ、母子保健、エイズ、人口問題などの実情を見てきた。各地では多くの女性が虐げられ、生命の危険にさらされている。 有森さんは訴える。「困難な現実の中でもあきらめず、一歩一歩進んでほしい。私も、スポーツの場などを通じて女性を応援していきたい」(伊藤剛寛)(おわり) ◆わらぶきの家 エチオピア南部では、円筒形の土壁に、わらぶき屋根の伝統的な住まいを多く見かける。中は土間で、ヤギなどの家畜もいる。北部には石造りの家が多い。 写真=新居でくつろぐベライさん一家。「子どもにはしっかりとした教育を受けさせたい」と言う(エチオピア・アディスアベバで) 写真=わらぶきの家
by alfayoko2005
| 2006-03-17 17:31
| ジェンダー・セックス
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