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今月の1本:大奥(よしながふみ)
大奥 よしながふみ・著 白泉社●女がホレる“女”吉宗 毎日 2006/04/07 カッコいいのだ、吉宗が!! 吉宗と言っても、あの暴れん坊将軍ではなく、いや、江戸時代の将軍の徳川吉宗ではあるのだが、現在「メロディ」(白泉社)で連載中で、単行本も一巻目が好調のよしながふみ版時代劇「大奥」の吉宗がひたすらカッコいいのだ。 その「大奥」に登場する吉宗、病弱だった七代将軍が亡くなり八代将軍に就任する。身分からいうと大抜擢。最初は幕府の古参に田舎者とバカにされそうにもなるが、そんなスキをあたえる間もなく、時の幕府を質素倹約・質実剛健な自分色に、あっという間に塗り替えてしまう。吉宗といえば「享保の改革」なんて歴史用語くらいは聞いたことあるが、本当の吉宗もこんなにカッコよかったのだろうか。私の周囲の女子たちは、のきなみ彼女にホレた!!と大騒ぎだ。もちろん私も。 彼女? 彼じゃなくて?? とお思いになるのは無理からぬことだが、彼女でまちがいない。この「大奥」の世界における吉宗は女。というか、全体に男女が逆転してる世界なのだ。 舞台背景を詳しく説明してみよう。江戸の初期、赤色疱瘡(ほうそう)という、天然痘に似た、若年男子の死亡率が異様に高い病気が流行り始める。これが、根本的な治療法のない、恐ろしいけど一般的な病気として定着してしまう。男子の人口は激減し、女の4分の1くらいになってしまう。その結果、男は子種を持つ存在として大事にされることになり、すべての労働力が女に交代。三代将軍家光までには、将軍はじめ、幕府の要人も全部女になってしまうのだ。 祐之進「何でえお前もどうせ習うなら唄や踊りの方が格好良くて女にもてるって言いてえんだろ」お信「あらあたしはそんな風には思ってやしないわ!だんなが剣術してるとこ、あたしは好きよ。た、ただほら男は女より力はあっても体は弱いでしょ。あんまり無理なすっちゃ体に毒ですから」 登場人物のセリフをちょっと抜き出してみた。会話をしてるのは、お互いを憎からず思っている、貧乏武家の息子祐之進と富裕な商人の娘お信なのだが、このセリフからわかるように、お信は女言葉を使い、祐之進は男の江戸っ子言葉を使っている。セリフだけでは分からないが、お信は時代劇に出てくるお店のお嬢さんの格好をしているし、祐之進はまげを結い、さっきまで剣術の稽古をしていたので袴をはいている。じゃあ、どこが「男女逆転」しているのだろうか? この世界は最初から男女逆転していたのではなくて、男子の人口が極端に減ったことから、男女の社会的立場が逆転した世界。生物としての性別(セックス)はそのまま、社会的立場としての性別(ジェンダー)が逆転、という大きくズレた世界なのだ。江戸時代が封建社会なのはそのままだが、男女の人口比のバランスが大きく崩れたことによって婚姻制度は崩壊し、嫁ならぬ婿をとる社会になっている。さらに、稀少な男子を婿にとることは、地位が高い武士階級や裕福な家のみに許される特権。貧乏な女は、花街などで男を買い子種をつけてもらって子を成す。そして、武士階級であっても貧乏なうちに育った男子などは、家計のために子種(つまり身)を売らないといけなかったりする。なのに、贅沢にも大奥には美男がズラーッ!そんな中にあって吉宗は、着任早々「大奥」をはじめ、幕府の腐敗を切っていく、なんというか、男の中の男なのだ。カッコいい!!……いや、女なんだけどね。 ところで、先ほどから「吉宗カッコいい」とくりかえしているが、このマンガは吉宗のカッコよさをたん能するだけのマンガではない。構成も凝っていてカッコいいのである。あんまり書くとネタバレになりすぎて、これから読む人の楽しみがなくなってしまうので小出しにしておくが、例えば、このマンガには、主人公だと思わせられる登場人物が三人でてくる。その三人が移り変わって「あれっ?」「あれっ?」と思ってる内に、読者はこの奇妙な設定にいつのまにかなじんでいく。最初は「将軍が女」ということに驚いていたのが、1巻の終わりごろには、吉宗が「春日局が女だった」って事実に驚くのと一緒に自分も驚いてしまって、それに驚くほどにこの変わった設定にいつのまにか馴染んでる自分に、さらに驚かされるのだ。 奇妙な設定、凝った構成、笑いあり人情ばなしありミステリーありシビアな政治上の掛け引きありのお話、そうした一見処理しにくそうな部分を、まったく理屈っぽくなく、さらりと楽しめるマンガに仕上げているよしながふみの手腕は見事だ。 読みながら「男らしさや女らしさってなんだろう」など考えさせられることも多いのだが、男のほうがえらい、あるいは、女のほうががえらい、といった話にはなっておらず、つまるところ、男でも女でも、かっこいい人はかっこいい、かわいい人はかわいい、と素直に思えてしまう気持ちのいいマンガになっている。 彼女がこういうことをさりげなくこなせているのには、彼女独特の、長いが読みやすいセリフまわしや、肝心なところは短いセリフか、セリフでなく表情のみでみせる効果や、はみ出しや変形の比較的少ない、分かりやすいコマ運びなどにも起因している。 ●「やおい」に終らないよしながの技量 が、男女逆転、という特殊な設定の処理のうまさは、彼女が「やおい」(あるいは「ボーイズラブ」) の世界から登場したマンガ家であることも大きいかもしれない。「やおい」というのは、主に、中心読者を女性に据え、男性同士の同性愛を描いたエンタティンメントだ。マンガや小説を中心に、最近ではアニメやゲームといったメディアにも進出している。ちょっとした街の書店に行くとすでに大きなコーナーが必ずあるので、ジャンルとして確立していることを知っている向きも多いかもしれない。よしながふみは、94年にその「やおい」の世界から商業誌デビューした。よしながの描く「やおい」マンガは、男性同士の恋愛を描いていても、この現実社会での彼らの困難や、困難との折り合いの付け方にまで目線が行っていて説得力がある。その経験が「大奥」でも生きているのだろう。 できればこの機会に「大奥」とともに、彼女のこれまでのマンガ、例えば「愛すべき娘たち」(白泉社)、「愛がなくても喰ってゆけます。」(太田出版)、「子どもの体温」(新書館)、「ジェラールとジャック」(ビブロス)、「ソルフェージュ」(芳文社)、テレビドラマにもなった代表作「西洋骨董洋菓子店」などもあわせて読んでみてほしい。 これまでのよしながマンガは、ストーリーよりはどちらかというとエピソードが目立つマンガだった。なんでもない自炊のシーンやエピソードが積み重なって真実味が増し、気づいてみると物語になっている、という印象である。一方「大奥」は、一本筋の通ったストーリーを楽しむタイプのマンガだ。これまでのよしながマンガの中では異色ともいえるのだが、それがかえってよしながマンガを初めて読む人には読みやすいかもしれない。 もちろん私はこれまでのよしながマンガの手法も大好きだが、みなさんはどちらがお好みだろうか、はたまた、どちらもお気に召すだろうか。【ヤマダトモコ】 大奥よしながふみ・著白泉社 ◇筆者プロフィル マンガ研究者。川崎市市民ミュージアム漫画部門担当。少女マンガの研究家としても知られる。毎日新聞本紙でもコラム「マンガの居場所」連載中。 2006年4月7日
by alfayoko2005
| 2006-04-17 00:47
| Books
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