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[論点]政治家と英語 言葉の怖さ、知ってますか 大沼保昭(寄稿) (読売 2006/05/05朝刊)
最近、英語で演説したり議論できる政治家がふえてきた。海外留学や在外勤務の経験をもつ政治家が以前より多くなったのだろう。英語が世界共通語であることは否定できず、このこと自体は望ましい傾向である。 ただ、日本人にとって英語はあくまで「外語」である。微妙な言い回し、高度な内容を要求される表現では、当然英語を母語とする人に劣る。英語で話すとき、ほとんどの日本人は自分の本来の力を発揮できないことを覚悟しなければならない。 国会議員や閣僚は日本を代表する方々である。その発言は日本国民全体の発言として受け取られる。それだけに、公の場で政治家が英語で発言する場合、細心の注意が求められる。不適切なことばを含む発言も、諸国で日本を代表する発言として受け取られ、日本に不利益をもたらしかねないからである。 先日、日本の対外関係に関(かか)わる閣僚が米国の大学の記念パーティーで演説するのを聴く機会があった。この閣僚は外国暮らしの経験があり、日本人としてはかなり流暢(りゅうちょう)な英語を話す。その時の演説もまあまあのものだった。官僚が手を入れただろう原稿をほぼ読み上げるわけで、大きな問題は生じない。 しかし、質疑応答となると話は別である。何が出てくるかわからない質問に、自分のことばで当意即妙に答えなければならない。その日の質疑は、悪化した中国との関係をどう再構築するかという質問など、興味深いものだったが、それへの答えは何とも危ういものだった。 質問にまともに答えない。脇道にそれた話が延々と続く。こうした点もお粗末だったが、とくに問題なのは、ある途上国で地下鉄工事が遅れたことに関連して、その国民の能力の低さを嘲笑(ちょうしょう)するかのようなジョークを堂々と披露したことである。 他国の欠点をあげつらい、民族の誇りを傷付けることは、最も慎むべき態度である。仮にジョークやユーモアだとしても、それは国際社会で一番忌み嫌われ、非難されることである。 私はその少し前に米国のライス国務長官の見事な質疑応答を聞いていただけに、日本人としていたたまれない思いがした。日本に批判的な記者がその場にいたら、待ってましたと悪口を書き送ったのではないか。 ことばは、いったん口から出てしまったら取り返しがつかない。母語でさえ失言癖のある政治家は、外語ではさらに重大な失言をしかねない。現に、慣れない英語で質疑応答に応じて失言して批判を招いた政治家は、日本でも他の非英語国でも少なくない。逆に老練な政治家は、英語ができる人でも大事な場面では通訳を使う。ことばの怖さを熟知しているからである。 閣僚は日本を代表する立場にある。その人にお粗末で不適切な発言をされたのでは、日本のイメージが傷付き、国民全体の利益が大きく損なわれる。閣僚や与党幹部にはちゃんと通訳がついているのだから、自分は英語で百パーセント日本語と同じことが言えるという人でない限り、質疑応答の場では通訳を使うべきである。 一部の政治家が英語を話せることをひけらかすのは、まわりにそれを持ち上げる風潮があるからだろう。しかし、英語ができるというだけで高い評価を与えること自体、大いなる勘違いの所産である。 生兵法はけがのもと。政治家は、英語が少しできるくらいで得意がらず、国民全体の不利益となる事態をまねくことは厳に慎んでいただきたい。 ◇ ◇おおぬま・やすあき 東大大学院教授 専門は国際法。「国際法」「人権、国家、文明」「戦争と平和の法」など著書や編著多数。60歳。 写真=大沼保昭氏
by alfayoko2005
| 2006-05-07 01:36
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