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美しい国・考 安倍政権誕生(5) 家族の在り方 理想の幸せって何? (中日 2006/10/04夕刊)
憎いし、苦痛。安倍晋三首相が訴える「美しい国」を逆さまに読むと、こうなる。東京都内の病院で働く女性(四〇)は、同じ母子家庭の友人に言われてハッとした。美しさと苦痛という“光とをはらんだように聞こえる国づくり。「自分たちは切り捨てられるのか」と、怖くなってきた。 ドメスティック・バイオレンス(DV)に悩み、四年間もの調停と裁判を経て医師の夫と離婚。中学二年と小学四年の息子二人との暮らしを支え七年が過ぎた。年収が約八十万円しかない時期もあり、簡易保険を解約してしのいだ。三人で川の字になって眠るとき、ささやかだが幸せを感じた。 上の子が小四の時。「学級崩壊の原因をつくった」と先生が名指しした三人のうち、息子を含む二人が母子家庭の子だった。「あの子たちの家は欠損家庭だから」と、先生が使ったという差別的な言葉を人づてに聞き、丸太で頭を殴られたような痛みを覚えた。安倍氏がつくろうとする国に自分たちの居場所はあるのか。ため息が出た。 ◇ 美しい国とは何か。安倍氏は首相就任会見でこう答えた。 「その姿の一つは、美しい自然や日本の文化や歴史、伝統を大切にする国。そうした要素の中から培われた家族の価値というものを再認識していく必要がある」 自著「美しい国へ」では「同棲(どうせい)、離婚家庭、再婚家庭、シングルマザー、同性愛のカップル、そして犬と暮らす人…どれも家族だ、と教科書は教える。そこでは、父と母がいて子どもがいる、ごく普通の家族は、いろいろあるパターンのなかのひとつにすぎないのだ」と指摘。 多様な家族のあり方を認めながらも、「子どもたちにしっかりした家族のモデルを示すのは、教育の使命」と訴える。 「離婚を考えて結婚する人なんていない」と、冒頭の女性。「安倍さんは排他的に勝ち組だけを集めるみたいで、二者択一の世の中になるのが怖い。都合のいい部分だけに目を向ければ、安倍さんにとっては美しいかもしれないけど…」 ◇ 「自分の家族が普通かどうかをほかと比べていたら、いつまでも幸せになれない。個人の価値観の問題じゃないか」 出産を先延ばしにして十年。しゅうとめとの同居を受け入れ夫(四五)と結婚したが、嫁の立場という伝統的価値観の押しつけに耐えられず別居した主婦(三九)は、今も子どもをつくらないことに罪悪感があるという。 「パラサイト・ワイフ(寄生する妻)」。昨年五月、少子化対策を話し合った政府税調でこんな言葉が飛び出した。両親に頼って生活する独身者を「パラサイト・シングル」と表現することがあるが、この席では「子どもも産まず、何もしない専業主婦がたくさんいて、お金を持ってぶらぶらしている」「駄目な家族を支援する必要はない」などと強烈な言葉が飛び交った。 汐見稔幸東大教授(教育人間学)は「どんな家族をつくるかは国民が模索するもので、従うものではない。頭の中にある頭の中にある狭い価値観を押し付けるのでなく、現実の家族がもがき、努力しているプロセスを応援する仕組みづくりが、政治家の仕事ではないか」と指摘している。 =終わり (この連載は東京社会部・森川清志、西田義洋、大村歩、佐藤直子、築山英司、石川修巳が担当しました)
by alfayoko2005
| 2006-10-09 18:49
| ジェンダー・セックス
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