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今週の本棚:村上陽一郎・評 『男たちの帝国--ヴィルヘルム2世…』=星乃治彦・著
毎日新聞 2006年11月19日 東京朝刊 ◇『男たちの帝国--ヴィルヘルム2世からナチスへ』 (岩波書店・2625円) ◇「皇帝の愛人」と非難を受けた側近 現代社会でも、男性(女性の場合も当然そうだが)の同性愛はマイノリティには違いない。そしてマイノリティ(同性愛のみならず)の権利を尊重しようという動きは、少しずつ拡がっている。しかし、特にこうした性的な嗜好の場合には、「マイノリティを差別しないように」という言い方そのものさえ、抑圧として働くという事情がある。著者は、こうした現代の問題の起源を、社会史的な手法で歴史的に解き明かそうとする。著者本来の専門であるドイツ現代史は、その恰好(かっこう)の現場ということができる。 というのも、第一に、日本ばかりでなく、西欧社会でも、一九世紀末近くまでは、男性同士の敬愛(性愛も含めて)関係は、社会的に糾弾の対象ではなかったのであり、近現代になって、一つのイデオロギーが、それをタブー化したからであり、第二に、ナチスの「健康」志向は、「健康帝国」という表現さえ生むほどで、そのなかで、一般的には男性の同性愛は、激しい弾圧を受けた、と考えられているからである。 本書の叙述は、「ヴィルヘルム2世からナチスへ」となっているように、ナチス時代に先立つヴィルヘルム2世治下の帝国時代に始まる。1888年皇帝の地位に就くや、近代国家統一の立役者ビスマルクを排して、自らの「親政」によって政治の刷新を図ったヴィルヘルム2世であるが、その軽率な言動や対外政策の失政から、仏、英などと無用の軋轢(あつれき)を起こし、最終的には第一次世界大戦の当事国の元首として、敗北と共にオランダ亡命で辛うじて生きながらえた人物である。 著者は、その帝室における側近フィリップ・オイレンブルクを、皇帝の「愛人」(ドイツ語の<Freund(フロイント)>であり、この語は必然的に「男性」を指す)として捉える。オイレンブルクは発展家で、皇帝から漁民まで、多くの「愛人」と関わりがあったらしいが、宮廷内での彼らの関係が、政敵からは激しい非難の対象になった。ただ、それは性的スキャンダルとして(その要素もなかったわけではないので、ちょうど世紀末あたりから、同性愛をスキャンダルとみなすイデオロギーが拡がり始めたとも言える)糾弾されたばかりではなく、男性同性愛者は「女性的」、「政治に不向き」、「決断力や剛毅さの欠如」などといったジェンダー・バイアス的な評価からくる非難にも晒(さら)された。 この点は、一方では制服に身を固めた「男らしい」男性像が、自他ともに男性のなかに敬愛(性愛)を引き起こす(三島事件がその典型だろう)、という側面と錯綜した関係を生み出す。というのも、ナチスの時代の男性同性愛的な空気の源泉の少なくとも一つは、そうした感覚であったと思われるからだ。著者のナチス時代の分析は、その最も得意とするところだけに、精緻(せいち)を極めるが、断種などの厳しい処罰が喧伝(けんでん)されることから想像されるほどに、ナチス時代の同性愛禁令は厳格でも体系的でもなかった、という事実が明かされる。もちろん一般的にはタブーだったが。 一つだけ。著者の問題意識は、単に歴史研究にあるのではなく、現代社会の権力的構成への鋭い批判であり、その下にあえぐ人々の側に立って生きることだと思われる。そして本書は、そういう「われわれ」のために書かれているはずだ。そうだとすると、本書の語り口の「学術的」性格は、そうした読者を拒む働きをしていなければよいが。そんなことを考えつつ、重い思いをもって読んだ。 男たちの帝国 ―― ヴィルヘルム2世からナチスへ ―― 星乃 治彦 ■体裁=四六判・上製・カバー・238頁 ■定価 2,625円(本体 2,500円 + 税5%) ■2006年10月18日 ■ISBN4-00-022388-7 C0022 いまジェンダー研究やセクシャリティ研究などを背景に,クイア・スタディーズという「同性愛者」の視点から,これまでのヘテロを軸とした「知」が問い直されている.本書は「われわれ」の問題として,新たな歴史学の視点を持つクイア・ヒストリーを提唱し,ヴィルヘルム2世から現代までのドイツ史の深層を掘り起こしてゆく. more
by alfayoko2005
| 2006-11-23 11:42
| Books
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